させるという世にも珍らしいサルタンのような性質を持っている女なのではあるまいか。」
そして、それを知らないで、みすみすその精神的労苦を引受けた自分こそ、よい笑われものである。急に娘に対する憎みが起った。だが、また娘の顔を覗《のぞ》くと、あんまり鮮かで屈托がなさ過ぎる。私の反感も直ぐに消えてしまう。
「この無邪気さには、とても敵《かな》わない」
私は気力も脱けて、今度はしきりに朗吟の陶酔に耽《ふけ》っている、社長の肩を揺って、正気に還《かえ》らせ、
「これは真面目《まじめ》なご相談ですが……」と、木下の新嘉坡《シンガポール》に於ける女出入や、その他の素行に就《つ》いて、私はまるで私立探偵のように訊《き》き質《ただ》すのであった。
深林の夜は明け放れ、銀色の朝の肌が鏡に吐きかけた息の曇りを除くように、徐々に地霧の中から光り出して来た。
一本のマングローブの下で、果ものを主食の朝餐《ちょうさん》が進行した。レモンの汁をかけたパパイヤの果肉は、乳の香がやや酸※[#「やまいだれ+発」、742−下−21]《さんぱい》した孩児《あかご》の頬《ほお》に触れるような、※[#「車+(而/大)」、第
前へ
次へ
全114ページ中81ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 かの子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング