、野天風呂も沸せば、応接用の室を片付けて、私たち女二人のための寝室も作った。
「森はずれから野鶏と泥亀を見付けて来たんですが、どう料理したらご馳走《ちそう》になるか、へばって[#「へばって」に傍点]いましたら、お嬢さんが、すっかり指図して教えて呉《く》れたんで、とても上等料理が出来ました。これならラフルス・ホテルのメニュウにだってつけ出されまさ」
事務員の一人は、晩餐《ばんさん》の食卓でこう云った。なるほど、支那料理めいたもの、日本料理めいたもののほかに、容器は粗末だが、泥亀をタアトルス・スープに作ったものや、野鶏をカレー入りのスチューにしたものは特に味がよかった。
「わたくしだって、こんな野生のものを扱うの始めてですわ。学校の割烹科《かっぽうか》では、卒業生が馬来半島へ出張料理することを予想して、教えては呉れませんでしたもの」
娘は、また、こんなことを云って、座を取り持った。主人側の男たちは靉靆《あいたい》として笑った。
娘がこういう風に、一人で主人側との接衝を引受けて呉れるので私は助かった。
私は私が始めてあの河沿いの部屋を借りに行ったとき、茶絹のシャツを着、肉色の股引《も
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