もひき》を穿《は》いて、店では店の若い者に交り、河では水揚げ帳を持って、荷夫を指揮していた娘を想《おも》い出した。そして、この捌《さば》けて男慣れのした様子は、あまりに易々としたところを見せているので、私はまたこれが娘の天成であって、私が付合い、私がそれに巻込まれて、骨を折っている現在の事は、何だか私の感情の過剰から、余計なおせっかいをしているのではないかという、いまいましいような反省に見舞われそうになった。
事務員の青年たちは、靉靆として笑い、娘に満足させられている様子でも、それ以上には出ないようであった。たった一人、ウイスキーに酔った一人の青年が、言葉の響を娘にこすりつけるようにして、南洋特産と噂《うわさ》のある媚薬《びやく》の話をしかけた。すると娘は、悪びれず聞き取っていて、それから例の濃い睫毛《まつげ》を俯目《ふしめ》にして云った。
「ほんとにそういう物質的のもので、精神的のものが牽制《けんせい》できるものならば、私の関り合いにも一人飲ませたい人間があるんでございますわ」
その言葉は、真に自分の胸の底から出たものとも、相手の話手に逆襲するとも、どっちにも取れる、さらさらした
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