》する。男達は意味あり気な笑いを泛《うか》べて、
「やっとるね」
「うん、やっとるね」
と云った。
それは海峡の一部に出来るイギリス海軍根拠地の大工事だと、社長は説明した。
道が尽きてしまって、そこから私たちはトロッコに乗せられた。箱車を押す半裸体の馬来人《マレイじん》は檳榔子《びんろうじ》の実を噛《か》んでいて、血の色の唾《つば》をちゅっちゅと枕木に吐いた。護謨園《ゴムえん》の事務所に着いた。
事務所は椰子林《やしりん》の中を切り拓《ひら》いて建てた、草葺《くさぶ》きのバンガロー風のもので、柱は脚立のように高く、床へは階段で上った。粘って青臭い護謨の匂《にお》いが、何か揮発性の花の匂いに混って来る。
壁虎《やもり》がきちきち鳴く、気味の悪い夜鳥の啼《な》き声、――夕食後私はヴェランダの欄干《らんかん》に凭《もた》れた。私のいる位置のいびつに切り拓かれた円味のある土地を椰子の林が黒く取巻いている。截《き》り立ったような梢《こずえ》は葉を参差《しんし》していて、井戸の底にいるような位置の私には、草荵《くさしのぶ》の生えた井の口を遙かに覗《のぞ》き上げている趣であった。
そ
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