感想に捉《とら》われながら、娘を見ると、いよいよ不思議な娘に見える。娘はモデレートな夏の洋装をしているのだが、それは皮膚を覆う一重のものであって、中身はこの回教の寺院の中に置けば、この雰囲気に相応《ふさ》わしく、ヒンズー教の精力的な寺院の空気にも相応わしかった。そればかりでなく、この地の活動写真館のアトラクションで見た暹羅《シャム》のあのすばらしく捌《さば》きのいい踊りを眺めていた時の彼女に、私はその踊りを習わせて、名踊子にしたい慾望さえむらむらと起ったほど、それにも相応しいものがあった。
 一体この娘は無自性なのだろうか、それとも本然のものを自覚して来ないからなのだろうか。また再び疑わねばならなくなった。
 それから凡《およ》そ七十|哩《マイル》許《ばか》り疾走して、全く南洋らしいジャングルや、森林の中を行くとき、私は娘に訊《き》いた。
「どう」
「いいですわね」
「いいですって……どういうふうにいいの」
「そうねえ……ここに一生住んで、自分のお墓を建てたいくらい」
 そういう娘の顔は、さしかける古い森林の深いどす青い陰を弾ね返すほど生気に充《み》ちていた。
 時々爆音が木霊《こだま
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