、強情に貿易のことを主張する男がいる。その男は始終船に乗って海上に勤め、そして娘は店で老主人の代りに、手別《てわ》けして働いている。娘は簡潔に家の事情をここまで話した。そして、その船貿易を主張する店のもののことに就《つ》いて、なおこう云って私の意見を訊いた。
「その男の水の上の好きなことと申しましたら、まるで海亀か獺《かわうそ》のような男でございます。陸へ上って一日もするともう頭が痛くなると申すのでございます。あなたさまは物をお書きになって、いろいろお調べでございましょうが、そんな性質の人間もあるのでございましょうか」
と云ったが、すぐ気を変えて、「まあ、お仕事始めのお邪魔をいたしまして、またいずれお暇のとき、ゆっくりお話を承りとうございますわ」と、火鉢の火の灰を払って炭をつぎ、鉄瓶へ水を注《さ》し足してから、爽《さわ》やかな足取りで出て行った。
爛漫《らんまん》と咲き溢《あふ》れている花の華麗。
竹を割った中身があまりに洞《うつろ》すぎる寂しさ。
こんな二つの矛盾を、一人の娘が備えていることが、私の気になって来たし、この娘の快活の中に心がかりであるらしいその店員との関係も、考
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