みると、私に決めた部屋はすっかり片付いていて、丸窓の下に堆朱《ついしゅ》の机と、その横に花梨胴《かりんどう》の小長火鉢まで据えられていた。
そこへ娘は前の日と同じ服装で、果《くだ》もの鉢と水差しを持って入って来た。
「どういうご趣味でいらっしゃるか判りませんので、普通のことにして置きましたが、もし、お好きなら古い書画のようなものも少しはございますし……」
そこで果物鉢を差出して
「こういうふうなものなら家の商品でまだ沢山ございますからご遠慮なく仰《おっしゃ》って下さいまし」
果物鉢は南洋風の焼物だし中には皮が濡色《ぬれいろ》をしている南洋生の竜眼肉《りゅうがんにく》が入っていた。
私はその鉢や竜眼肉を見てふと気付いて、
「お店は南洋の方の貿易関係でもなすっていらっしゃるのですか」と訊《き》いた。
「はあ、店そのものの商売は、直接ではございませんが、道楽と申しましょうか、船を一ぱい持って居りまして、それが近年、あちらの方へ往き来いたしますので……」
娘の父の老主人はリョウマチで身体の不自由なことでもあり、気も弱くなって、なるたけ事業を縮小したがっている。しかし、店のものの一人に
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