の、さっき塞《ふさが》っているといった奥の河沿いの部屋へ連れて行った。
その部屋は日本座敷に作ってあって、長押附《なげしつ》きのかなり凝った造作《ぞうさく》だった。「もとは父の住む部屋に作ったのでございます」と娘はいった。貸部屋をする位いなら、あんな事務室だけを択って貸さずにこの位の部屋の空いているのを何故貸さないのかと私はあとでその事情は判ったけれどその時は何も知らないので不審に思った。
ともかく私は娘の厚意を嬉《よろこ》んでそして
「では明日からでも、拝借いたします。」
そう云って、娘に送られて表へ出た。私はその娘の身なりは別に普通の年頃の娘と違っていないが、じかに身につけているものに、茶絹で慥らえて、手首まで覆っている肌襯衣《はだシャツ》のようなものだの、脛《すね》にぴっちりついている裾裏《すそうら》と共色の股引《ももひき》を穿《は》いているのを異様に思った。私がそれ等に気がついたと見て取ると、娘は、
「変って居りまして。なにしろ男の中に立ち混って働くのですから、ちと武装しておりませんとね。」
といって、軽く会釈して、さっさと店の方へ戻っていった。
あくる日に行って
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