ともなく移って行く。軽く浮く芥屑《ごみくず》は流れの足が速く、沈み勝ちな汚物を周《めぐ》るようにして追い抜いていく。荒く組んだ筏《いかだ》を操って行く馬来《マレイ》の子供。やはり都の河の俤《おもかげ》を備えている。
河口に近くなってギャヴァナー橋というのが、大して大きい橋でもないが、両岸にゲート型の柱を二本ずつ建て、それを絃《げん》の駒にして、ハープの絃のように、陸の土と橋欄とに綱を張り渡して、橋を吊《つ》っている。何ともないような橋なのだが、しきりに私達の心は牽《ひ》かれる。向う岸の橋詰に榕樹《ガジマル》の茂みが青々として、それから白い尖塔《せんとう》が抽《ぬき》んでている背景が、橋を薄肉彫のように浮き出さすためであろうか。私がいつまでも車から降りて眺めていると、娘はそれを察したように、
「東京の吾妻橋《あずまばし》とか柳橋とかに似てるからじゃありません?」と云った。
この橋から間もなく、河口の鵜《う》の喉《のど》の膨らみのようになっている岸に、三層楼の支那の倉庫店がずらりと並び、河には木履型《ぽっくりがた》のジャンクが河身を埋めている。庭の小亭のようなものが、脚を水上にはだけて
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