散らされながら、着物と帯をつき合せて、
「どう、いいじゃないの……」と、まるで呉服屋の店先で品選《しなえ》りするように、何もかも忘れて眺めていた。
 娘は、私から少し離れて停っていた。
「今日、あなたに見て頂こうと思いまして、昨夜|晩《おそ》くまでかかって展《ひろ》げて置きましたのですけど……あたくし、こんなもの、何度、破り捨てて、新らしく身の固めを仕直そうと思ったか判りません。でも、やっぱり出来ないで……時々ここへ来ては未練がましく出したり取り散らしたりして見るのですけれど……」
 明るみに出て、陽の光を真正面に受けると、今まで薄暗いところで見た娘の貌《かお》のくぼみやゆがみはすっかり均《な》らされ、いつもの爛漫《らんまん》とした大柄の娘の眼が涙を拭《ふ》いたあとだけに、尚更《なおさら》、冴《さ》え冴《ざ》えとしてしおらしい。
「いつ頃、これを慥えなさって?」
「三年まえ……」
 娘はしおしおと私に訴える眼つきをした。私は堪《たま》らなく娘がいじらしくなった。日はあかあかと照り出して、河の上は漸《ようや》く船の往来も繁《しげ》くなった。
「あんまりこんな所に引込んでいると、なお気が腐
前へ 次へ
全114ページ中49ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 かの子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング