していつ爆発するか知れない焦々したものがあって、心を一つに集中させない。私は時を置いて三四度、部屋の中を爪立《つまだ》ち歩きをして廻って見たが、どうにもならない。やま[#「やま」に傍点]は娘が、私の仕事時間を済ましてから来て欲しいと言伝《ことづ》てたが、いっそ、今、直《す》ぐ独断に娘を二階の部屋へ訪ねてみよう――
二階の娘の部屋の扉をノックすると、私の想像していたとはまるで違って見える娘の顔が覗《のぞ》いて、私を素早く部屋の中へ入れた。私の不安で好奇に弾んだ眼に、直ぐ室内の様子ははっきり映らない、爪哇更紗《ジャバさらさ》のカーテンが扉の開閉の際に覗《のぞ》かれる空間を、三四尺奥へ間取って垂れ廻《まわ》してある。戸口とカーテンのこの狭い間で、娘と私はしばらく睨《にら》み合いのように見合って停った。シャンデリヤは点《つ》け放しにしてあるので、暗くはなかった。
思いがけない情景のなかで突然、娘に逢《あ》って周章《あわ》てた私の視覚の加減か、娘の顔は急に痩《や》せて、その上、歪《ゆが》んで見えた。ウェーヴを弾《は》ね除《の》けた額は、円くぽこんと盛上って、それから下は、大きな鼻を除いて、中
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