かわ》の雪景色であった。
小店員が入って来て、四五通の外文の電報や外文の手紙を見て呉《く》れと差出した。
「まことに済みませんが、店の者みんな出払ちゃいましたし大旦那《おおだんな》にもお嬢さんにも寝込まれちゃいましたので……」
大切な急ぎの用だと困るというので私が見たその注文の電報や外文は南洋と云われる範囲の各地からだった。その一つには、
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板舟。鯛箱《たいばこ》。
卸《おろ》し庖丁《ぼうちょう》大小。鱈籠《たらかご》。
半台。河岸|手桶《ておけ》。
計りザル。油屋ムネカケ。
打鉤《うちばり》大小。タンベイ。
足中草履《あしなかぞうり》。引切《ひっきり》。
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ローマ字から判読するこれ等は、誰か爪哇《ジャバ》[#ルビの「ジャバ」は底本では「ジャパ」]で魚屋を始める人があって、その道具を注文して来たのだった。
一礼して去る小店員に向って、私は、
「こういう簡単なものもご覧になれないって、お嬢さんどういうご病気なの」
というと、小店員はちょっと頭を掻《か》いたが、
「まあ、気鬱症《きうつしょう》とか申すのだそうでございましょうかな。滅多
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