っていた。私は炬燵《こたつ》に入って、叔母に向って駄々を捏《こ》ねていた。
「あすこの家へ行くと、すっかり分別臭い年寄りにされて仕舞うから……」
「だから、なおのこと行きなさいよ。面白いじゃないか、そういう家の内情なんて、小説なんかには持って来いじゃありませんか」
この叔母は、私の生家の直系では一粒種の私が、結婚を避け、文筆を執ることを散々嘆いた末、遂に私の意志の曲げ難いのを見て取り、せめて文筆の道で、生家の名跡を遺《のこ》さしたいと、私を策励しにかかっているのだった。
「叔母さんなんかには、私の気持ち判りません」
「あんたなんかには、世の中のこと判りません」
だが、こういう口争いは、しじゅうあることだし、そして、私を溺愛《できあい》する叔母であることを知ればこそ、苦笑しながらも、それを有難いと思って、享《う》け入れている私との間には、いわば、睦《むつ》まじさが平凡な眠りに墜《お》ちて行くのを、強いて揺り起すための清涼剤に使うものであったから、調子の弾むうちはなお二口三口、口争いを続けながら、私はやっぱり河沿いの家のことを考えていた。
結局あの娘のことを考えてやるのには、どうして
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