も、海にいるという許婚《いいなずけ》の男の気持ちを一度見定めてやらなければならなくなるのだろう。ここまで煩わされた以上、もう仕事のために河沿いの家を選んだことは無駄にしても、兎《と》に角《かく》、この擾《みだ》された気持ちを澄ますまで、私はあの河沿いの家に取付いていなければならない。
河沿いの家で出来たことは、河沿いの家できれいに仕末して去り度い。
そう思って来ると、口惜しさを晴らす意地のようなものが起って来て、私は炬燵の布団から頬《ほお》を離して立ち上った。
「河沿いの仕事部屋へ雪見に行くわ」
叔母は自分の意見を採用しながら、まだ、痩我慢《やせがまん》に態のよいことを云ってると見て取り、得意の微笑を泛《うか》べながら、
「ええええ、雪見にでも、何でも好いから、いらっしゃいとも」と云って、いそいそと土産《みやげ》ものと車を用意して呉《く》れた。
昨日の礼に店先へ交魚の盤台を届けて、よろしくと云うと、居合せた店員が、
「大旦那《おおだんな》は咋夕からお臥《ふせ》りで、それからお嬢さんもご病気で」と挨拶《あいさつ》した。私は、「おや」と思いながら、さっさと自分の河沿いの室へ入っ
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