の上鬢《うわびん》から掻《か》き出した洋髪の波の先が掛り、いかにも適確で聡明《そうめい》に娘を見せている。
私は女ながらづくづくこの娘に見惚《みほ》れた。棕櫚の葉かげの南洋蔓草の花を見詰めて、ひそかに息を籠《こ》めるような娘の全体は、新様式な情熱の姿とでも云おうか。この娘は、何かしきりに心に思い屈している――と私は娘に対する私の心理の働き方がだんだん複雑になるのを感じた。私はいくらか胸が弾むようなのを紛らすために、庭の天井を見上げた。硝子《ガラス》は湯気で曇っているが、飛白《かすり》目にその曇りを撥《はじ》いては消え、また撥く微点を認めた。霙《みぞれ》が降っているのだ。娘も私の素振りに気がついて、私と同じように天井硝子《てんじょうガラス》を見上げた。
合図があって、私たちは再び茶室へ入って行った。床の間の掛軸は変っていて、明治末期に早世した美術院の天才画家、今村紫紅《いまむらしこう》の南洋の景色の横ものが掛けられてあった。
老主人の濃茶の手前があって、私と娘は一つ茶碗《ちゃわん》を手から手に享《う》けて飲み分った。
娘の姿態は姉に対する妹のようにしおらしくなっていた。老主人の茶
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