と、何か紙一重|距《へだ》てたような、妙な心の触れ合いのまま、食後の馥郁《ふくいく》とした香煎《こうせん》の湯を飲み終えると、そこへ老主人が再び出て来て挨拶《あいさつ》した。茶の湯の作法は私たちを庭へ移した。蔵の中の南洋風の作り庭の小亭で私達は一休みした。
私は手持不沙汰《てもちぶさた》を紛らすための意味だけに、そこの棕櫚《しゅろ》の葉かげに咲いている熱帯生の蔓草《つるくさ》の花を覗《のぞ》いて指して見せたりした。
娘は微笑し乍ら会釈して、その花に何か暗示でもあるらしく、煙って濃い瞳《ひとみ》を研ぎ澄し、じーっと見入った。豊かな肉附き加減で、しかも暢《の》び暢《の》びしている下肢を慎ましく膝《ひざ》で詰めて腰をかけ、少し低目に締めた厚板帯の帯上げの結び目から咽喉《のど》もとまで大輪の花の莟《つぼみ》のような張ってはいるが、無垢《むく》で、それ故に多少寂しい胸が下町風の伊達《だて》な襟の合せ方をしていた。座板へ置いて無意識にポーズを取る左の支え手から素直に擡《もた》げている首へかけて音律的の線が立ち騰《のぼ》っては消え、また立ち騰っているように感じられる。悠揚と引かれた眉《まゆ》に左
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