の娘の語ることが、もはや単純な下町娘の言葉ではなく、この種の智識にかけては一通り築きかけたもののあるのを見て取った。慎《つつま》しく語ろうと気をつけている言葉の端々に関東ローム層とか、第三紀層とかいう専門語が女学校程度の智識でない口慣れた滑らかさでうっかり洩《も》れ出すのを、私の注意が捉《とら》えずにはいなかった。
「とてもそういうお話にお詳しいのね。どうしてあなたが、こう申しちゃ何ですけれど、下町のお嬢さんのあなたが、そういう勉強をなさったのですか、素人にしちゃあんまりお詳しい……」
娘は、
「河岸に育ったものですから、東京の河に興味を持ちまして……それに女子大学に居りますうち、別にこういうことに興味を持つ友達と研究も致しましたが……」と俯向《うつむ》いて云うと、そこで口を噤《つぐ》んだ。
「たった、それだけで、こんなにお詳しい?」
私は、娘の言訳が何かわざとらしいのを感じた。何かもっと事情ありげにも思ったが、私はまたしてもこの家の人事に巻き込まれる危険を感じたので、無理に気を引締めて、もっと追求したい気持ちは様子に現わさなかった。
こうして親しげに話していて、隣に座っている娘
前へ
次へ
全114ページ中28ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 かの子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング