て笑った。「そのくらいのことなら、前に随分あたしだって……」
私はこの娘に今まで見落していたものを見出して来たような気がした。芸妓は手持無沙汰《てもちぶさた》になって、
「そうでございますかねえ、じゃ、ま、抓《つね》っても見たり……」と冗談にして、自分を救ったが、誰も笑わなかった。
すると若い芸妓の方がまた
「だめ、だめ、そんな普通な手じゃ。あたしいつか、こちらさまの大旦那の還暦のご祝儀がございましたわね。あのお手伝いに伺いましたとき」といって言葉を切り、そしていい継いだ。「酔った振りして、木ノさんの膝《ひざ》に靠《もた》れかかってやりました。いろ気は微塵《みじん》もありません。お嬢さんにゃあ済まないけど、お嬢さんの為めとも思って、お嬢さんほどの女をじらしぬくあの評判の女嫌いの磐石板《ばんじゃくいた》をどうかして一ぺん試してやりたいと思いましたから。すると、あの磐石板はわたしの手をそっと執ったから、ははあ、この男、女に向けて挨拶《あいさつ》ぐらいは心得てると、腹の中で感心してますと、どうでしょう、それはわたしが本当に酔ってるか酔ってないか脉《みゃく》を見たのですわ。それから手首を離
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