ているらしく、それを訊くと同時に、
「やっぱり――」と云って興醒《きょうざ》め顔に口を噤《つぐ》んだ。
「そう申しちゃ何ですけれど、あたしはお嬢さんがあんまり伎倆《うで》がなさ過ぎると思いますわ」
と今度は年長の芸妓が云った。「これだけのご器量をお持ちになりながら……」
娘は始めて当惑の様子を姿態に見せた。
「あたしは、随分、あの人の気性に合うよう努めているんだけれど……なによ、その伎倆っていうの」
年長の芸妓は物事の真面目《まじめ》な相談に与《あずか》るように、私が押し出してやってある長火鉢に分別らしく、手を焙《あぶ》りながら、でもその時急に私の方を顧慮する様子をして
「ですが、こちらさんにこんなお話お聞かせして好いんですか」
「ええ、ええ」
娘の悪びれないその返事が如何にも私に対する信頼と親しみの響きとして私にひびいた。先程からの仕事への焦慮もすっかり和んで、むしろ私はその場の話を進行させる為めにことさら自らの態度を寛がせさえするのであった。年長の芸妓は安心したように元の様子に戻って
「ま、譬《たと》えて云ってみれば、拗《す》ねてみたり、気を持たせてみたり」
娘は声を立て
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