上、月に二つ三つはかかしませんが、男優では、仁左衛門《にざえもん》と鴈次郎《がんじろう》が好きな様《よう》です。
 氏は家庭にあって、私憤《しふん》を露骨《ろこつ》に洩《も》らしたり、私情の為《ため》に怒って家族に当《あた》ったりしません。その点から見て、氏は自分を支配することの出来る理性家であるのでしょうか。たまたま家族の者に諫言《かんげん》でも加えるには、曾《かつ》て夏目漱石《なつめそうせき》氏の評された、氏の漫画の特色とする「苦々しくない皮肉」の味《あじわ》いを以《も》って徐《おもむ》ろに迫ります。それがまたなまじな小言《こごと》などよりどれほどか深く対者《あいて》の弱点を突くのです。また氏の家庭が氏の親しい知己《ちき》か友人の来訪に遇《あ》う時です、氏が氏の漫画一流の諷刺《ふうし》滑稽《こっけい》を続出|風発《ふうはつ》させるのは。そんな折の氏の家庭こそ平常とは打って変《かわ》って実に陽気で愉快《ゆかい》です。その間などにあって、氏に一味《ひとあじ》の「如才《じょさい》なさ」が添《そ》います。これは、決して、虚飾《きょしょく》や、阿諛《あゆ》からではなくて、如何《いか》なる場合
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