の》っている。或《あ》る養殖家の話では巴里で一年に食べられる蝸牛の数は約七千万匹で、それを積み重ねると巴里の凱旋門《がいせんもん》よりも高くなるというから大したものである。
 蛙《かえる》を食べ始めたのもフランス人だと聞いた。食用蛙は近来《きんらい》日本でも養殖されるが、本場のフランスに於《おい》てさえまだなかなか普遍《ふへん》的な食物とはなっていないようだ。その点から云えば蛙より蝸牛《かたつむり》の方が遥《はる》かに優《まさ》っている。蛙料理は上等のバタでフライにしてトマトケチャップをかけて食べる。上等のバタを使うので、出来上《できあが》りがねっとり[#「ねっとり」に傍点]していて些《いささ》か無気味《ぶきみ》に感ぜられる。蛙は寧《むし》ろラードのようなものでからり[#「からり」に傍点]と揚《あ》げた方があっさりしていてよくはないだろうか。
 蛙や蝸牛などのグロテスクなものを薄《うす》気味悪い思いをしてまで食べなくとも、巴里《パリ》には甘《うま》い料理がいくらもある。
 ラングストと云《い》っている大きな蝦《えび》の味は忘れかねる。これは地中海で獲《と》れる蝦で、塩茹《しおゆで》にし
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