異国食餌抄
岡本かの子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)小半時《こはんとき》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)食欲|三昧《ざんまい》の

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)くろずん[#「くろずん」に傍点]だ
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 夕食前の小半時《こはんとき》、巴里《パリ》のキャフェのテラスは特別に混雑する。一日の仕事が一段落《いちだんらく》ついて、今少しすれば食欲|三昧《ざんまい》の時が来る。それまでに心身の緊張をほぐし、徐《おもむ》ろに食欲に呼びかける時間なのだ。どのテーブルにもアペリチーフの杯《さかずき》を前にした男女が仲間とお喋《しゃべ》りするか、煙草《たばこ》の煙を輪に吹きながら往来《おうらい》を眺めたりしている。フランス人特有の身振《みぶり》の多い饒舌《じょうぜつ》の中にも、この時|許《ばか》りはどこかに長閑《のどか》さがある。アペリチーフは食欲を呼び覚《さ》ます酒――男は大抵《たいてい》エメラルド・グリーンのペルノーを、女は真紅《しんく》のベルモットを好む。新鮮な色彩が眼に、芳醇《ほうじゅん》な香が鼻に、ほろ
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