で一度はレストラン・エスカルゴの扉《とびら》を排《はい》しないものはないであろう。エスカルゴとは蝸牛《かたつむり》のことで、レストラン・エスカルゴは蝸牛料理で知られている店である。この店も一流料理屋の列に当然加わるべき資格を持っている。
 一体《いったい》蝸牛《かたつむり》は形そのものが余《あま》りいい感じのものではない。而《しか》もその肉は非常にこわ[#「こわ」に傍点]くて弾力性に富んでいる。これを食べるには余程《よほど》の勇気がいる。フランス人に云《い》わせれば牡蠣《かき》だって形は感じのいいものではない。ただ牡蠣は水中に住み、蝸牛は地中に住んでいるだけの相違だ。人間が新しい食物に馴《な》れるまでには蝸牛に対するのと同じ気味《きみ》悪さを経験したに違いないと主張する。云われて見ればそうかも知《し》れないが、日本人にとっては無気味《ぶきみ》此上《このうえ》もないものである。
 蝸牛はどれでもこれでも食べられるのではなくて、レストラン・エスカルゴ等で食べさせるのはブルゴーニュという地方で産するものである。この地方に産するものが一番|旨《うま》いものとされている。
 食用蝸牛の養殖《よう
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