》けるような経済的理由からではなくて、もっと他に深い理由がありはしないだろうか。兎《と》に角《かく》中流以下のレストラントには必ず何人かの常客《じょうきゃく》がいて、毎日同じテーブルに同時間に同じ顔を見ることが出来《でき》る。私のような外国人でも二三日続けて行くと「あなたのナプキンを決めましょうか」と聞く。ナプキンを決めておけば食事|毎《ごと》にその洗濯代として二十五サンチームぐらいの小銭《こぜに》を支払わなくても済むからである。
 ルクサンブルグ公園にある上院の正門の筋向《すじむか》いにあって、議場の討論に胃腑《いのふ》を空《から》にした上院議員の連中が自動車に乗る面倒もなく直《す》ぐ駈《か》けつけることの出来《でき》るレストラン・フォワイヨ、マデレンのくろずん[#「くろずん」に傍点]だ巨大な寺院《じいん》を背景として一日中自動車の洪水《こうずい》が渦巻《うずま》いているプラス・ド・マデレンの一隅《かたすみ》にクラシックな品位を保って慎《つつ》ましく存在するレストラン・ラルウ、そこから程《ほど》遠くないグラン・ブールヴァルの裏にある魚料理で名を売っているレストラン・プルニエール、セー
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