通り、貞淑堅固の御婦人ですか、それとも内心には、ちっとは人の情熱に動かされ易い熱情的なところを持っていられますか。そのところを伺えると大変都合がいいんですけれど」
老侍女「どうでございますかわたくしには、……ただ、下々には思い遣りの深い良い奥様でございます」
妙な美男「それだけじゃ、何の足しにもなりませんね。もっと男女の愛情に対する性格を伺わなくっては」
老侍女「それほど御執心なら、あなたこそ直接に奥様にお会いを願って、ご自分でお見分けになったらいいじゃございませんか」
妙な美男(溜息をして)「とてもとても、そんな勇気が出ないのです。私には式部の作品を通して式部は相当、熱情的の方とは思われますが、しかし一方、ひどく鋭いところもあらるるようなので、実際臆病になっちまうのです。それでこんなにあの方をお慕い申していながら仲々お会いする勇気が出ませんのです。まあ今日は此《こ》の儘《まま》、帰りますから、あとでこの色紙を奥様に差し上げて下さい。さようなら」
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(妙な美男、家を振り返り振り返り残り惜し気にとぼとぼと下手へ入る。老侍女、手に色紙を持ったまま、暫らく呆《あき》れた
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