或る秋の紫式部
岡本かの子
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)築地垣《ついじがき》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)観世音|菩薩《ぼさつ》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから2字下げ]
−−
[#ここから2字下げ]
時
寛弘年間の或る秋
処
京の片ほとり
人
紫式部 三十一二歳
老侍女
妙な美男
西向く聖
(舞台正面、質素な西の対屋の真向き、秋草の生い茂れる庭に臨んでいる。その庭を囲んで矩形に築地垣《ついじがき》が廻らされているが、今は崩れてほんの土台の型だけ遺《のこ》っているばかりなので観覧席より正面家屋の屋内の動静を見物するのに少しも差支えない。
上手、築地垣より通路一重を距てて半《なかば》、紅葉した楓《かえで》の木の下に、漸《ようや》く人一人の膝を入れるだけの庵室。傍に古井。
正面、対屋の建築は、紫式部の父、藤原為時の邸宅の一部であって、為時は今、地方官として赴任中、留守であるが、式部はしばらく中宮より宿下りして実家の此の部屋に逗留しているところ。几帳、棚、厨子《ずし》など程よく配置され
次へ
全13ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 かの子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング