の眼の前に立ちふさがって」
妙な美男「いや、驚かせて済みません。驚かすつもりは、ちっとも無かったんですが」
老侍女「何か御用なんですか。御用なら早くおっしゃって下さいませんか」
妙な美男「では、お尋ねしますが、いま、あすこに筆を持って書いていられた女性は、紫式部さんでしょう。そうでしょう」
老侍女「そうでございます。世間で専《もっぱ》ら評判の高い奥様でいらっしゃいます」
妙な美男「そして、いま書いていらっしゃるのは源氏物語の続きでしょう」
老侍女「どうでございますか、私どもなんかには判りませんです」
妙な美男「いや、それに違いありませんよ。(眼を瞑って想像するように)、奥様は今、きっとあの物語の中の死んだ夕顔の事を忘れ兼ねている源氏の君の心を思いやって、そうだ、そこから次の恋人の発見への物語に筆を進められていられるところに違いない。そうですよ、きっと、そうですよ」
老侍女「何とでも御想像になるのは御勝手ですが、一体、あなた様は何の御用でいらっしたのでございます」
妙な美男「御用と開き直られると困るんですが、若《も》し伺えたら伺ってみたいのです。紫式部という方はどんな方ですか。世間の噂の
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