キンで拭いた。
まともに押しても決して彼女が素直な返事をしないことを小田島は知り切って居た。と云ってカマをかけて訊《き》くようなえごいことは仕度《した》く無い女だ。小田島は思い切って聞いた。
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
――君はこの土地へ、探偵に来たのだろう。
――ふふん、それが何《ど》う仕《し》たというの。
[#ここで字下げ終わり]
イベットは少しぎょっとしたが、子供らしくとぼけ、胸を反らして小田島に逆らう様な恰好《かっこう》をした――その時、太陽が直射した。そして額や頬に初秋の海風が一しきり流れると彼女は急に崩折れた。
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
――腕を借してよ、小田島。私に縋《すが》らしてよ、こんな商売、私、随分、寂しいのよ。
[#ここで字下げ終わり]
イベットは両手で小田島の腕を握り、毛織物を通して感じられる日本人独特の筋肉が円く盛上った上膊に顳※[#「需+頁」、第3水準1−94−6]《こめかみ》を宛《あて》がった。そして何か強い精気あるものに溶け込み度い思いで一ぱいになって居るように彼女は静に眼を半分閉じるのだった。かもめの落す影が
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