ドーヴィル物語
岡本かの子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)巴里《パリ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)前夜|晩《おそ》く
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「需+頁」、第3水準1−94−6]
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一
日本留学生小田島春作は女友イベットに呼び寄せられ、前夜|晩《おそ》く巴里《パリ》を発《た》ち、未明にドーヴィル、ノルマンジーホテルに着いた。此処《ここ》は巴里から自動車で二時間余で着く賭博中心の世界的遊楽地だ。
壮麗な石造りの間の処どころへ態《わざ》と田舎《いなか》風を取入れたホテルの玄関へ小田島が車を乗り付けた時、傍の道路の闇に小屋程の塊《かたまり》が、少し萌《きざ》して来た暁の光を受け止めて居るのが眼に入った。彼の疲れた体にその塊は、強く生物の気配《けは》いを感じさせた。よく観《み》るとそれは象であった。背中から四肢にかけ、縦横に布や刺繍《ししゅう》や金属で装ってあるらしい象の体は、丸く縛り竦《す
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