く》められ、その前肢に背を凭《もた》せ、ダラリと下った鼻を腕で抱《だい》た一人の黒ン坊が眠って居るのもうすうす判る。まだホテルの羽目にも外に三四人の黒ン坊が、凭れて眠って居る様子だ。
 小田島は近頃、巴里で読んだ巴里画報の記事を思い出した。カプユルタンのマハラニがドーヴィル大懸賞の競馬見物に乗って出る為《ため》、わざわざ国元|印度《インド》から白象を取寄せたということ。また小さい美しい巴里女優ラ・カバネルが四人の黒ン坊の子供に担がせた近東風の輿《こし》に乗って出るということ。その伊達競《だてくら》べに使われた可憐な役者達が、勤めを果して此処《ここ》に眠って居ることが彼に解った。
 暁の空に負けて赤黄いろく萎《しな》びかけたシャンデリヤの下で小田島が帳場の男に、イベットが確《たしか》に泊って居るかどうかを尋ね合せて居ると、二三組の男女が玄関から入って来た。男はタキシード、女は大概ガウンを羽織り、伯爵夫妻とでもいうような寛《ゆるやか》な足取りで通って行く。次に誰の眼にも莫連女《コケット》と知れる剥《む》き出しの胸や腕に宝石の斑張りをした女が通った。何《いず》れドーヴィルストックの名花の一人
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