――あなたは随分長く、あの娘と交際《つきあ》いましたか。
――ええ、あの娘が此処へ来ると間もなくからね。わたし達は知って居てあの娘の技巧にも乗ってやりました。賭博場《カジノ》の秘密も教えてやりました。フランスの致命傷になら無い程度の秘密まではね。あの胡蝶は只の胡蝶と違ってそういう餌を必要としましたから…………お蔭であの娘の居た三ヶ月間、このドーヴィルは浮き浮きとして金も余計に落ちました。だが此処の季節ももう直き閉じますし、それにこの上あの可愛ゆい娘に居られたらわたし達は愛国心に反《そむ》くまで娘に国情を探らしてやることになりそうです。そこで衆議一決追放、ということに極りましてね。
[#ここで字下げ終わり]
 小田島は呆れた後から怒《いかり》が胸へ込み上げて来た。
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
――老獪《ろうかい》だな。全く老獪だなフランス人は……探偵に来たイベットを、あべこべにドーヴィルで利用したんだな。馬鹿にしてるな、まったく。
――は、は、は、怒っちゃ気が早いよ、あなた。わたし達ドーヴィルの人間は商売気を離れてあの娘を愛して居たってことをよく聞き取って下さいよ。フラ
前へ 次へ
全55ページ中53ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 かの子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング