来た。男は賭博場《カジノ》の切符台の四十男だ。
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
――可哀相ですね、イベットは。とうとう国事探偵の嫌疑で国境まで追放です。
[#ここで字下げ終わり]
小田島は何か相槌を打とうとした声が咽喉へ詰った。
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
――惜しい娘だがこれ以上、ドーヴィルへあの娘を置くことは出来ません。あの可愛い利口な娘にかかっては、フランスが盗まれてなら無いものまで根こそぎ盗まれて仕舞いますからな。
――あなたはあの娘が、何か盗んだことでも知って居るんですか。
――は、は、は…………あまい恋人だね、あなたはフランス人というものをよく御存じ無いんですね。殊にこのドーヴィルの人間をね。市長始めわたし達はとうからあの娘が探偵だって事はよく知ってましたよ。
――それでよく今日まで、あの娘を此処へ置きましたね。
――しかし、直ぐ追い出しちまうにはあんまり可愛ゆい娘でしたからな。妙に魅力のある娘でしたからな。それであんまり害になら無いところまで此処に置いてやりました。ドーヴィルの花園の装飾にはいろいろ翼の模様の変った胡蝶が必要ですからな。
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