っきり判らない。
――ムッシュウ・小田島! もう最後だから、何もかも私に云わして。
――最後って、此処で別れたからって何も君と僕とこれから逢えない訳は無いじゃ無いか。
――いいえ、最後よ。私、何も彼《か》もお話しすれば判りますわ…………さ、其処へ掛けましょう小田島。
[#ここで字下げ終わり]
 彼女は少し離れた崖際の木の下にあまり雨にも濡れずに置き捨てられた様な一つの古いベンチを見出した。二人は掛けた。四方は森閑として居る。折々遠方でポロ競技場の馬群に浴せる歓声が聞える。
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
――私の性質に私の今までの仕事がぴったり合って居たと思って、小田島。私、仕事なんかに向く女じゃ無いのよ。今度の仕事なんかも私が腕がある女と見込んだのより却って私の子供っぽい性質が人に好かれたり人を油断させたりするのが、命令した人達の目の着け所だったのよ。
――それは僕にも判る。
――私のこの性質が私を或点まではどの仕事の時にも私を仕合《しあわせ》にしたり私に面白い目を見せて呉れたのよ。でも結局は仕事ですもの。仕事となれば何だって辛《つら》いのよ。だから、私の辛い時の愚痴や
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