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――市長マシップ氏にも用があるんですが、何処に居られますか。
――市長ですか、市長は今朝五時半まであの娘さんとスコットランドの金持ちミスター・ジョージと三人でルイジで小夜食を喰べ乍ら一緒に居ました。三人は今夜西班牙へ出掛けるつもりです。それで市長は用意の支度に家へ帰りました。
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 小田島は彼女に喰い尽された残骸としてのドーヴィルを眼の前に感じた。彼女はもう西班牙へ発つのか。ドーヴィルにはもう用は無いのか――小田島はしばらく呆然自分の靴を眺めて居ると男は今度はけげん相に訊く。
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――貴方はマドモアゼルのお友達ですか。
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 小田島に突然、イベットを憎む衝動が起きた。イベットは、そんな緊急な事態の矢先きに何故自分をこんな処へ呼び寄せたんだ。彼は腹立ちまぎれに無茶が云い度かった。
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――これでも僕は彼女の恋人ですよ。
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 すると男は、今までの柔和に似ず鋭い笑いを見せて云った。
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