置いてあり、鞍にリボンなど着いて居るのを見ると、ひょっとしたらイベットの馬かも知れない。イベットがこの男にこんな役目を勤めさせるほど、何時の間に手馴着《てなず》けたものかも知れない、と小田島は直覚的に考えた。
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
――お早う。これはマドモアゼル・イベットの馬じゃ無いですか。マドモアゼル・イベットは今、何処に居られますか。
[#ここで字下げ終わり]
 男は別に意外な顔もせず答えた。
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――ほう、あなたはマドモアゼル・イベットを御存じですか。マドモアゼルは今、其処《そこ》の崖を降りてお寺へ行って居ます。坊さんに知り合いがあるので賽銭の上り高を聞くのだと仰《おっしゃ》ってでした。あの娘さんは実に熱心な社会学者ですな。
[#ここで字下げ終わり]
 彼も相槌《あいづち》を打つ。
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
――そうですな。本当に熱心な社会学者ですな。
[#ここで字下げ終わり]
 同時にこの物知り顔の男に序《ついで》に探ぐって置くことがある。小田島は何気無い風を粧《よそお》って聞いた。
[#ここ
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