。で、結局彼は彼女に恋以外の何物とも知れぬ魅力で牽《ひ》きつけられて来たのだけれど……今度、彼女は何か覚悟する処でもあって、自分を此処へ呼び寄せたのではあるまいか、電報で呼ぶ位の突飛な仕業は、彼女として別に珍らしがる程のことでも無いが、思い做《な》しか昨日オンフルールで会った彼女は一層いつもより淋《さび》し気に見えた。何か最近、彼女に差し迫った変事でもありはしまいか――そんな予感が微《かす》かに起ると小田島は尚更じっとして居られなかった。
小田島は廊下へ抜け出し、イベットの泊って居る部屋附のボーイにいくらか金を握らせ、彼女の様子を聞いて見た。ボーイの答えによると彼女は今しがたカジノからホテルへ乗馬服と着替えに帰って来て、鞭《むち》を持って出て行った。十時には温浴とマッサージとマニキュアを命じてあるから帰って来るに違い無い。との事である。彼はその時間までは待ち遠い。それまでこのホテルの自分の部屋にあんな女の寝姿と一緒に居度くもない。彼はイベットが朝の乗馬に出たものと知って、乗馬道を尋ねて行き、彼女に逢おうという気になった。そのうちあの女も眼を醒まし、自分の居ないのが分ったら何処かへ出て
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