度に発し腕は小田島の腕へしっかりしがみ付き乍ら首を小田島の肩に載せ、こんこんと眠りに落ちて行こうとする。イベットにあわよくば会えようと思って出て来たことも忘れ、彼は前後の考えもなくなり、何もかも面倒になって女をノルマンジーホテルの自分の部屋へ連れ込んで寝かして仕舞った。
六
女は小田島の寝台へ投げ込まれ、前後不覚に眠込んで仕舞ったが、彼は女の傍で到底眠る気になれない。彼は長椅子を壁際に押して行き、毛布を掛けてその上へ横になると、疲れが直ぐに深い眠に彼を引き入れて行った。
小田島が長椅子の上から醒めたのは、朝も余程|長《た》けた頃だった。寝台の女はまだ前後不覚に寝こけて居る。その荒《すさ》んだ寝姿を見るにつけ、彼にはイベットの白磁のように冷い魅力が懐かしまれる。もしイベットに、この女のような無茶苦茶があったら自分のイベットに対する気持ちは、もうずっと前から世間普通の恋となって居たであろう。だがイベットが時々虚脱して単なる「物」になる不思議、あれは魅力としても殆ど超人間的なものだ。それとあの子供のように見せつけ度がる技巧癖、あれらは二人を恋にするにはあまりに白けさせる
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