張し、両手を堅く握り合せ、床に足首を立て重い靴の先で場内を見廻って居た。
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――そうら。遂々《とうとう》また見付けた!
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四百九十三号室の女である。
小田島は腹立たしくなった。この女は、まるで誰かに頼まれでも仕た様に、この土地へ来てから自分の行く先々に付いて廻る。実に面白くも無い邂《めぐ》り合《あわ》せだ。
だが女は、小田島がそんな腹で居ようが居まいがという調子でぐんぐん男の腕を捲いて仕舞った。仕方がない! 酔って居ないのがまだしもだ、なまじい逆《さから》って喚《わめ》かれるより逆に利用して此処の説明でも聞く方が増しだと彼は腹を極《き》めて仕舞った。女はしかし、何か非常にこだわっで居るように興奮して居る。そして捲いた男の手を力強く曳いて暫く場内をあちこち歩いて居たがふと立ち止ると急いで腕を解き邪慳《じゃけん》に小田島の耳朶《みみたぶ》を引いた。
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――イベットが居る。あんた、イベットが見度くって来たんだろう。ちゃんと知ってる。
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五百フランのテ
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