ーブルにイベットが居た。「親元」に立って居る老紳士の真向いのテーブルに女王のような取り済し方で臨んで居る。彼女は顔に非常に似合う好い色の着物を着て居る。テーブルの組の人達もみんな彼女にその権威を許し彼女の機嫌に調子を合せて居るように見える。中でも彼女の隣の猪首で年盛りの男は卑屈なほど彼女の世話を焼いて居る。
イベットも小田島の来たのを認めた。すると態《わざ》とらしく猪首の男の肩に凭れ、疲れを癒す真似《まね》をした。男は眼を無くしてイベットの手の指を接吻した。彼女はまたちらと小田島の方に眼を遣ったが連れの女には眼も呉れなかった。小田島は勿論、こんな女が自分の傍に居るのを知ってもイベットが何とも思わないことを知って居た、それよりもイベットの子供らしいとはいえ態《わざ》と自分にからかって他の男に巫山戯《ふざけ》る様子にいくらかの嫉妬を感じた。だがそれよりも尚《なお》彼は連れの女の不思議な様子に気を奪《と》られた。女はイベットから無視されたにも拘らず、イベットが此方《こちら》を向くとそそくさ目礼し愛想笑いをし、送りキッスまでした。而《しか》も顔は興奮に青ざめ、息使いまでがせわしい。女はイベッ
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