すうす聴いて居た。しかし、それ程一々の賭博から多く取上げて行くことは知らなかった。フランス国内に勢力を持って居る多くの風教団体がフランスの不名誉として賭博税を、また人道の不名誉として賭博場の全廃を、あらゆる精力を費して叫んで来たが一向行われ無い。寧《むし》ろカジノは国内に増すばかりである。「世界大戦後の財政の立直るまで」と云い訳して来た財務当局の口実も意味をなさぬ今日に於《おい》ては、なおその正論を無視してやり続けて居るのも、これ程うまい利益が吸えるからだ。とイベットが少し興奮し乍ら話すのを小田島は熱心に聴いて居た。
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
――で、一体フランス政府へは一年に何《ど》のくらい賭博から這入《はい》るのだろう。
――それが簡単に判る位だったら、わたしこんなに苦労はしなかったのよ。なかなか判らないからまたわたしの商売にもなるのよ。
[#ここで字下げ終わり]
小田島は彼女の顔をあらためて見た。彼が三年前彼女と巴里の共和祭の踊場で知り合って以来、彼女は随分職業を変えた。ジャン・パトウのマネキン娘。愛犬倶楽部の書記助手。土耳古《トルコ》の金持の妾《めかけ》、
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