時、玄関へ一団の訪問客の押しかけて来たけはいを感じて言葉を切った。訪問客の一団は丁度ロンドンで開かれたインドに就いての円卓会議の出席者として態々《わざわざ》渡英して来たインド各聯邦の代表者達の秘書の妻君や娘達であることを先刻の肥った老女中の取次ぎが丁寧《ていねい》に伝えて行った。景子達の日本的律義にいくらか窮屈だったらしいガルスワーシー夫妻は急にくつろぎを見付けたように立ち上って、そそくさと玄関へ出かけて行った。二人の日本人は夫妻の其の態度に老英帝国がインド聯邦を保護国として迎える態度を聯想した。賑《にぎ》やかに入って来た客は印度《インド》婦人服独特の優雅で繚乱《りょうらん》な衣裳を頭から被《かぶ》り、裳裾《もすそ》を長く揺曳《ようえい》した一団の印度婦人だった。
 始めその婦人達は先客としての日本の男女を紹介されてちょっと気負いを挫《くじ》かれた形だったが、直き又揃えたような美貌を正面に立ててガルスワーシーに逢えた光栄を得意の英語の大げさな口調でしゃべり始めた。室の入口の両隅に寄せてあった五脚の低い椅子を夫人と女中が茶テーブルの周りに持って来る間に景子達はガルスワーシーの左側へ椅子を
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