ガルスワーシーの家
岡本かの子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)此《こ》の
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)野|薔薇《ばら》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)にわとこ[#「にわとこ」に傍点]
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ロンドン市の北郊ハムステットの丘には春も秋もよく太陽が照り渡った。此《こ》の殆《ほと》んど何里四方小丘の起伏する自然公園は青く椀状にくねってロンドン市の北端を抱き取って居る。丘の表面には萱《かや》、えにしだ、野|薔薇《ばら》などが豊かに生い茂り、緻密《ちみつ》な色彩を交ぜ奇矯な枝振りを這《は》わせて丘の隅々までも丹念な絵と素朴な詩とを織り込んで居る。景子のロンドンに於ける仮寓は此の丘の中に在った。
中秋の或る快晴の日の午後、景子は友人の某大学英文科の助教授宮坂を案内して彼がしきりに逢いたがって居た此の国の文学者ジョン・ガルスワーシー邸を訪ねて行った。
友人の宮坂は多年の念願が成就する喜びに顔を輝かし丘の小径《こみち》を靴で強く踏みしめながら稚純な勇んだ足どりで先に立って歩いた。ロンドンで曾《か》つて有名
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