れるような脂肪過多の老女中は玄関の扉を開けて顔を出した。彼女は度々景子を見知って居るのに英国風に改まって景子と同伴者の名前を聴いて引きこんで行く。直ぐ入れ違いにガルスワーシー夫人が現われる。予《あらかじ》め電話で打ち合せがしてあったので待ち受けて居たのであろうにこにこと出迎えた。彼女は日本で言うとそれ者上りのように垢抜《あかぬ》けのした、白ちゃけた感じのする面長の美人で白髪交りの褐色の頭髪を後で手際よくまるめて居る。服装も目立たない黒地がかった普段着のドレスを着て居る。有名な芸術家の妻としての何か特異な姿を待ち望んで居たらしい宮坂は此処でまた一寸不可解な顔をする。夫人の案内で景子達は英国産の樫の木材で内部を組立てた純英国式の応接間へ通った。
ガルスワーシーは景子達が室へ入るのを待ち兼ねたように閾口《しきいぐち》まで出迎えて握手の手を差し出した。近頃氏の握手には木骨に触れる性の無い堅さを感じる。これは永年の劇《はげ》しい創作的努力と英国紳士としての対外的妥協の生涯から来た全身的疲労の一部だとも考えられる。そして少し光る眼で二人を見おろして居る長身のガルスワーシーは狡猾《こうかつ》と人の
前へ
次へ
全22ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 かの子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング