の邸内は斜めに奥へ拡がり、四季咲きの紅白の蔓《つる》薔薇に取り囲まれた二百坪ばかりの緑の芝生の裏庭に向う室は軽快なサンルームとなって、通りすがりの男女にちょっと盗見したい気持を起させる。非常に繊細な工夫によって建てられた快適な住居であることがわかる。そしてガルスワーシーがロンドンの汚れた霧|瓦斯《ガス》を遁《のが》れて健康の丘と呼ばれるハムステットに日常人事の受付所として設けた此の邸の表玄関に較べて、ひそやかで而《し》かも華やかな裏庭一帯の感じは、彼が平常多くの時間を過しに行って居る遠く離れた田舎《いなか》の本宅の情景の一部を移し採って来たもののように見える。
此の邸宅が現わす感じのように典型的の英国人であるガルスワーシーは一見|気難《きむずか》しやのようで実は如才ない苦労人だということがつき合って行くうちに判って来る。景子が英国ペンクラプの会員となって其の主宰者の彼から招待を受けて彼を此の家に訪問して以来、彼は打ち融けて時折り裏庭の亭《あずまや》でお茶の会をして呉れたりした。
景子は玄関のベルを押した。平素留守番|許《ばか》りさせられて居て、余り動く必要のない為めに肥ったとも思わ
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