[#ここで字下げ終わり]
ガルスワーシーはまた立上った。そしてズボンの隠しに両手を入れて思案深い、やや老獪《ろうかい》な態度で室内を漫歩しながら続けた。
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――だが、私共はいくつでもブレーキを持って居るのです。自分でもうるさいくらいの。で、その沢山のプレーキの歯止めを噛ませるうちには、どれかの歯止めが役に立つのです。我々英国民はそうやすやすとは押し流されはしないでしょう」
[#ここで字下げ終わり]
さて此の首尾を全《まっと》うした愛想話が客にどういう効果を与えたか老獪にちょっと此方《こちら》を窃《ぬす》み視た。其の態度はずるいと言えばそれまでだが衰えながら、やっぱり年長の位を保って相手に大様《おおよう》さを見せ度がって居る老人の負けず嫌いが深く籠《こも》っていた。
老夫人は特に客に此の結論に注意せよといったふうに、「その通り」と相槌《あいづち》をうった。
話が余りにまとまりよく、そして鮮かに引き結ばれたので、その後に残った却って興味索然とした空白が四ツの顔をただまじまじさせた。
景子は切上げ時だと思って催促の眼ざしを宮坂の横顔に向
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