置くのを恐縮しながら夫妻は裏庭のサンルームの方へ更《あらた》めて二人を案内した。途中夫人の居間らしい褐色に塗られた北側の室と、カーテンを引いた白ペンキ塗りの枠を持つ今|一《ひとつ》の部屋の窓からは内部の模様がわからなかったが食堂らしい南側の室との間の細長い廊下を引き切って、先頭に立ったガルスワーシーが其のいくらか前屈《まえかが》みの長身を横にそらすと景子達は庭の芝生の緑の強い反射に眩《くら》まされて眼をまたたきながらサンルームに出た。勧められた安楽椅子にちょっと手をかけた景子は急に此庭の秋色が見たくなって窓際へ近寄って行った。
 中央の亭の柱にからんで、円錐形の萱葺《かやぶ》き屋根の上へ這い上って居る蔓薔薇は夏から秋に移ると直ぐに寒くなる英国の気候にめげてまばらに紅白の花を残して居たが、其の亭の周りのシンメトリカルに造られた四ツ弧形の花床には紅白黄紫の大輪菊がダリヤかと見えるようなはっきりした花弁をはねて鮮やかに咲き停《とどめ》て居る。景子は思わず嘆声を洩した。
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――日本の菊!」
――日本の菊じゃありませんよ。いくら花の形や色がそっくりでも
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