、英国に咲いてるのは矢張り英国の菊ですよ。香も日本の菊程無いし、葉にもむく毛が無い。全体に日本の菊のようにおっとりした品が無くって徒《いたずら》にパッと開いて居ますね」
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宮坂は景子の直ぐ傍へ来て今までの鬱屈を晴らすような明快な声で言い放った。空気と共に花の匂いを一ぱい胸に吸い込むような大きな息もした。その時一たん椅子に坐ったガルスワーシーが二人の話題へはいりに立って来ようとするので二人はあわてて席へ戻った。やっと落ち付いて主客話し合おうとして見たが、応接間で印度の女達から受けたちぐはぐな気持がお互いの頭に、しこって居たのですぐにも打ち融けかねた。窓から入る気まぐれな風が灰皿や花瓶や英国製の純白の磁器を冷たく撫でて、そこらを二三度|匍《は》い廻った。
ガルスワーシーは立ち上って窓を閉めリョウマチスらしい左の肘《ひじ》を右の手で揉みながらしっかりと座に即《つ》いて最後に取って置きのお愛想をするのだと言わんばかりに自分の言葉に貴重さを響かしてこう言った。
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――失礼ですが私共からあなた方を見ると皆育ち盛りの児《こ》ども
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