る中に浪《なみ》がきらりきらり光った。刈《か》り取って乾《ほ》してある熟麦の匂いがした。
それらが縁側《えんがわ》から見える中|座敷《ざしき》でお蘭は帷子《かたびら》の仕つけ糸を除《と》っていた。表の町通りにわあわあいう声がして、それが店の先で纏《まとま》ると、四郎が入って来た。
四郎はお蘭の前に来ると、お蘭が何とか言ってくれるまでぷすっとして黙《だま》って立っているのがいつもの癖《くせ》であった。それがこの白痴に取ってせいぜい甘《あま》えた態度だった。それが面白いのでお蘭はなるたけ気がつかぬ振《ふ》りをしてうつ向いている。
だが、やがて振仰《ふりあお》いだときにお蘭はびっくりして叫《さけ》んだ。
「何ですねえ、四郎さんは。そんなおかしな服装《なり》をして」
四郎は赤い羽織に大黒さまのような頭巾《ずきん》を冠《かぶ》っていた。
「おら、嫌《いや》だと言ったんだけれど、みんなが無理に着せるんだよ」
四郎はお蘭の怒《いか》りに怯《おび》えながら言った。
「すぐお脱《ぬ》ぎなさい」
お蘭は手伝って四郎からそのおかしなものを取り去ってやった。
「白痴だと思ってこの子を玩弄物《おもち
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