ゃ》にするにも程がある」
 すると四郎は、
「白痴だと思って――この子を――玩弄物にするにも程がある」
 とおずおず口移しに真似《まね》て言った。不断、お蘭のいうことはすべて賢い言葉だと思って、口移しに真似て見るのが四郎の癖であった。日頃《ひごろ》はそれも愛嬌《あいきょう》に思えたが、今日はお蘭には悲しかった。お蘭は冷水で絞《しぼ》った手拭《てぬぐい》を持って来てやったり、有り合せの蕨餅《わらびもち》に砂糖をかけて出してやったりした。
 四郎は怯えも取れて、いつものようにお蘭の側に坐ってどこかで貰って来た絵本を拡《ひろ》げてお蘭の説明を訊くのであった。お蘭は仕事をしながら説明をしてやる。
「これなんだね」
「鉄道馬車」
「これなんだね」
「お勤め人、洋服を着て鞄《かばん》持って」
 四郎はその絵姿をつくづく眺めていたが、やがて言った。
「おら、もうじき洋服を着るだよ」
 お蘭は、これがただの四郎の空想だと思った。
「それはいいわね」
 四郎は得意になった。
「おら唄《うた》うたって、踊《おど》りおどるだよ」
 お蘭は少々|訝《いぶか》しく思えて来た。
「どこでよ、どうしてよ」
「そして
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