みちのく
岡本かの子
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)桐《きり》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)五六|軒《けん》置いて
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)そら[#「そら」に傍点]豆
−−
桐《きり》の花の咲《さ》く時分であった。私は東北のSという城下町の表通りから二側目《ふたかわめ》の町並《まちなみ》を歩いていた。案内する人は土地の有志三四名と宿屋の番頭であった。一行はいま私が講演した会場の寺院の山門を出て、町の名所となっている大河に臨み城跡《しろあと》の山へ向うところである。その山は青葉に包まれて昼も杜鵑《ほととぎす》が鳴くという話である。
私はいつも講演のあとで覚える、もっと話し続けたいような、また一役済ましてほっとしたような――緊張《きんちょう》の脱《ぬ》け切らぬ気持で人々に混って行った。青く凝《こご》って澄《す》んだ東北特有の初夏の空の下に町家は黝《くろず》んで、不揃《ふぞろ》いに並《なら》んでいた。廂《ひさし》を長く突出《つきだ》した低いがっしりした二階家では窓から座敷《ざしき》に積まれて
次へ
全16ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 かの子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング